職安通り「優苑」 といえば。
その昔、ピーチ&チェリー(P&C)という名で一世を風靡した超有名密着店が存在したが。
それと同じ場所にある。
ただ、この店「優苑」は、同じ場所(箱)で営業しているというだけで、P&Cとは、縁もゆかりもない。
オーナーにしても別人だし、当時の嬢など、とうの昔にいなくなって、1人も残っていない。
ただ、箱はほとんど昔のまま、改装されずにそのまま残っている。
なので、昔よく通ったなあと、たまに訪れて昔を懐かしむには最適(?)の店ともいえよう。
というわけで、今日も俺は、ただ単に箱を懐かしむためだけに「優苑」を訪れた。
嬢になど、何ひとつ期待はしていない。
どんなのが出てきてもかまうものかと、60分7Kを支払い、フリーであたったのは、みゆき嬢(仮名)だった。
年のころは35歳くらいだろうか。密着店では、定年間際の年齢だ。
美人、ではないな・・・。かわいい、という歳でもないし。
いわば、ひたすらおばさん。色気もない。
小柄で、スリム。もちろん、πは大きいわけがない。
何一つといって、特徴のない嬢だった・・・。
いくら嬢に何一つ期待してないといっても、矛盾するが、ひとつくらい取り柄があってほしいものだが。
幸い、不細工ではなかったのがせめてもの救いではあった。
普段の俺だったら・・・というか、相手が若い嬢だったら・・・何も考えずに、添い寝から逆マッサージ、そして抱擁からムフフへと至る一連の流れに忠実に従うのだが。
あまりにもモチベーションの上がらない嬢が相手だったので、そのあたりは手抜きして。
なんと、最初の30分、俺は、指圧を真面目に受けたのだった。
こんなことは、俺には、1年に1度あるかないか笑・・・。
嬢は、意外にも・・・というか、当たり前かもしれないが・・・熱心に指圧を続けてくれた。
それでも、30分も指圧をうければ、俺の場合、マッサージには飽きてくる。
もう十分だ。残りまだ時間は30分もあるが・・・。
俺はみゆき嬢に、
俺「ありがとう。指圧はもういいよ。休憩しよう。
ここに横になって。」
と言った。
すると、みゆきは、待ってましたとばかりに、休憩に応じて、横になった。
オッケー、添い寝に応じてくれた。
嬢と仲良くなるには、まずは添い寝。第一段階は簡単にクリアだ。
まあ、年齢の高い嬢だから、添い寝くらい応じてくれて当然だ。
と俺が思っていたら・・・。
みゆき嬢は、すぐにむくっと起きると、こう言った。
みゆき「ごめん、ちょっといい?私、携帯とってくる。」
携帯を取ってきて何をする気なんだろう?客から来たメールに返信でもしようというのだろうか。
接客時間中に携帯をいじられるのは、俺は好きじゃない。
というか、俺に限らず、それが好きな客がいるわけはないが・・・。
少しくらいなら、仕方ないよな。
彼女も営業もしなければならないだろう。
気になるメールが入っているのかもしれないし。
そう思って、とりあえず、携帯を取ってくることを俺は了解した。
控室に置いてあったと思われる携帯を持って、みゆき嬢はすぐに戻ってきた。
そして、俺の隣に横になると、なにやら操作を開始した。
今だにガラケーの俺には、彼女がやっているのがなんだかわからんが、
おそらく、LINEだか、微信だかいうやつだろう。
吹き出しが左右に現れて、そこに言葉を入力すると、相手に飛んでいく、というもので、交互にやりとりをする、あれだ。
昔で言えば、メールとチャットのあいのこみたいな機能だ。
みゆき嬢は、その機能を使って何やら中国語でやりとりをしているようだ。
はずかしながら、俺は中国語もまったくわからない。
なので、みゆきのやりとりがどういう内容なのか、よくわからないが。
どうも、相手と喧嘩をしているようだった。
みゆきが、2つ3つ入力する。すると相手からもすかさず、2つ3つ返ってくる。
するとみゆきが、また2つ3つ返す。
その繰り返しだ。
同じような単語が繰り返し飛ばされていく。
やりとりが激しい。
みゆきもかなり興奮して入力を続けているので、打ち間違いも多い。
そのたびに急いで再入力をする。
それがえんえんと続いている。完全にチャットと化している。
意味はわからないながら、さっきから同じ文句が繰り返し発せられているようで・・・。
堂々巡りの拉致のあかない言い合いになっているようだ。
だが、やめようとする気配はどちらにもない。
終わるような気配もない。
みゆきは、俺の「休憩しよう」という言葉を完全にいいように解釈したようだ。
「休憩だから、自由時間」みたいに。
俺としては、「マッサージは、休んでいいよ。お話しでもしようよ。」というくらいの意味だったのだが・・・笑。
もしくは、単に、みゆきは、相手とのやりとりに夢中になって、我を忘れているだけかもしれないが。
いずれにせよ・・・。
そんなこんなで、気が付くと、30分はあっと言う間に経過し、施術時間は終わりになろうとしていた。
俺が休憩しよう、と言ってから30分間、みゆきは、ずっと、スマホで友人との喧嘩を続けていたことになる・・・。
俺のことはそっちのけで笑。
しばらくして。
ふと我に返ったのか、終了時刻が来たのに気が付いたみゆき嬢は、信じられないことを俺に言った。
みゆき「もう時間だけれど。貴方、延長する?」
俺は、耳を疑った。
時間の30分もスマホで勝手にチャットしていて。
いくらマッサージが嫌いな俺でも・・・延長なんてするわけないだろう。
それで延長したら、いくらなんでもあふぉだ。
貴女にスマホをやらせるために延長する客がいると思うのか?
何か特別な下心があれば別だが笑。
俺は言う。「延長はしないよ。あなたずっと携帯やっていた。
そうでしょう?それで時間になったからって、延長はしないでしょう。」
すると、さらに信じられないことをみゆきは言う。
みゆき「でも、時間は店が決めたことだから。仕方ないでしょう?
だから、延長する?」
またもや俺は耳を疑った。いったい、どういう論理なんだろうか、彼女は。
理屈を言っても通じないとは思いながらも、俺は、こう言わざるを得なかった。
俺「店が決めた時間が来たのはわかっているよ。それはいいよ。
だから、終わるのはいいよ。でも、延長はしないよ。
貴女が、時間いっぱいマッサージやったなら、延長するかもしれないよ。
でも、貴女は30分もずっと携帯でメールしていて。
それで延長する客なんているわけないでしょう?」
みゆき「でも、時間は店が決めることだから、私は、勝手に時間を延ばすことはできないの。」
誰も、時間を延ばしてくれなんて言ってないのだが・・・。
彼女は、俺がもっと自分と一緒にいたいのだとでも思っているのだろうか?
俺は、無駄だとは思いながらも、説明を追加してみた。
俺「そういう意味じゃないよ。あなたが携帯やるために延長することはしない、という意味。」
しかし、というか、案の定通じなかった。
みゆきは、俺の主張は無視してこう言った。
みゆき「(携帯やってたこと、)ママには言わないでね!?」
俺「言わないよ。でも延長はしないよ。」
そりゃ、言わんよ。俺もそこまで意地悪でもない。でも・・・。
みゆき「わかった。今度はゆっくりね。」
全然わかってない・・・トホホ。
今度があるわけないでしょう!と俺は言いたかったが、あえて言わなかった。
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今日のことは、どう考えたらよいのだろうか・・・。
「休憩しよう」、と言ったのは確かに俺だ。
それで嬢がスマホをやり出したのも、仕方ないと言えば仕方ない。
そもそも、俺の「休憩しよう」は、心の底から嬢を休ませたいとの思いやりで言ったのではなく、添い寝から抱擁してムフフに進みたいという俺の下心が言わせたにすぎない。
だから、今日の件は、俺の下心から出た言葉が成功しなかっただけ、ともいえるのだ。
いわば、俺の自業自得だ。
しかし。いくら「休憩しよう」が俺の下心だったとしても・・・。
5分か10分、ちょっとの時間ならともかくも。
30分もLINEやりっぱなしは、ありなんだろうか。
ちょっとやりすぎと思うよ。
それは仮にいいとしても・・・。
いくらなんでも、時間になって「延長します?」は、ないだろうよ。
延長してほしかったら、もう少し何かこちらにしてくれないと。
さらに、自分がスマホをやっていたのを棚にあげて、「時間は店が決めること」・・・どういう思考回路なんだろうか・・・。
ちょっと違和感ありだなあ。
この行き違いは、俺が悪かったのか。嬢が悪かったのか。
まあ、きっかけをつくった俺の自業自得なんだろうけれどねえ。
そもそも、下心だし。
でも、嬢も、「客が何を求めて店に来るか」を多少なりとも自覚してほしいよね。
そのほうが、こっちには都合はいい。
そうでない嬢は、いずれは稼げなくて、この業界からはいなくなるだろうけれど。
一度とはいえ、あたったら災難と言えば災難だ。
今日の話は、店(優苑)の問題、というわけじゃなかろう。
たまたま、1人の嬢がそういう嬢だった、ということだ。
(了)